登記簿の上では、まだ生きている。
亡くなった名義人が語る、相続登記のはなし
※本ページの登場人物・事例は架空のものです。
※本ページの内容は、令和8年11月時点の法律にもとづいています。今後の法改正などにより、内容が変わる可能性があります。
古い土地の登記簿を取ってみると、会ったこともないご先祖の名前が載っていた――そんなことは珍しくありません。
そこで今回は、登記簿の上にだけ名前が残っている「亡くなった名義人」が、司法書士事務所に相談に来たら……というお話です。
お盆の夜の司法書士事務所。迎え火に誘われたのか、戸を叩く音もなく、紋付姿の老人の霊が現れる。名は西藤道右衛門。

……ご相談、でしょうか

あの世でな、『相続登記をせんと、子孫に罰金が来る』といううわさが流れてきてのう。わしも土地を持っておったから、子孫らに罰金が来やせんかと、心配になったんじゃ

ああ、そのうわさですか。罰金というのは少し違うんですが、相続登記の決まりが変わったのは本当です。放っておいていいお話ではありませんが、順を追って進めれば大丈夫ですよ。まずは、その土地の登記簿を見てみましょう
其の一登記簿には、わしの名


どれどれ……『所有者 西藤道右衛門』。おお、わしの名じゃ!

……じゃが、わしはもう死んでおる。
死んだ者の土地とは、いったい誰のものなんじゃ?

お亡くなりになった瞬間に、土地は相続人のものになっています。ただ、名義は自動では変わりません。誰かが法務局に申請しない限り、ずっと道右衛門さんのお名前のままなんです

なるほどのう。じゃが、子孫らがわしの名を見ても、誰のことやら分からんじゃろうな

ええ。会ったこともないご先祖のお名前ですから、ご家族にとっては、自分の家の土地なのに、どこか他人事に見えてしまうんです
其の二「わしは戸主じゃった」

道右衛門さんは、戸主でいらしたんですね

うむ。戸主というのはな、家の主(あるじ)じゃ。家族が嫁をもらうのも、どこに住むのも、わしの許しなくしてはできなかったんじゃぞ

お亡くなりになったのは、いつ頃ですか?

昭和15年じゃ。あの頃は家督相続というてな、戸主の財産は跡取りが一人で継いだものじゃ

わしの家では倅(せがれ)の龍右衛門が継いだ。ほかにも、嫁に行った娘と、養子に出た次男がおったが、家督には関係ない。じゃから、この土地は長男の龍右衛門のものになったはずじゃ

昭和22年5月2日より前に、戸主の方が亡くなったのなら、家督相続ですね。どなたが継いだかは、戸籍で確かめることになります
割烹着姿の女性が、すっと現れる。道右衛門の妻、おみである。

あなたが亡くなったとき、わたしは何ひとつ相続できませんでしたわね

か、家督は龍右衛門が継いだからのう……

わたしの名義の畑だって、管理はずっとあなたでしたし

そ、それがあの頃の決まりじゃったんじゃ!

今の法律なら、奥さまは必ず相続人になります。昭和22年を境に、ガラッと変わったんですよ

あら、今の人がうらやましいこと。
では、今からでも今の法律で分け直していただければ……

それはできないんです。相続のルールは、相続が始まった日の法律で決まります。道右衛門さんの場合は、亡くなった昭和15年なので、家督相続です

あら、残念
西藤家の場合
| 昭和15年に亡くなった (本事例) |
もし今、亡くなっていたら (比べるための仮定) |
|
|---|---|---|
| 相続の種類 | 家督相続 | 今の民法による相続 |
| 相続人 | 龍右衛門(長男)だけ | おみ(妻)・龍右衛門(長男)・次男・長女 |
| 取り分 | 龍右衛門がすべて | おみ 2分の1 子3人 各6分の1 |
| おみ(妻) | 相続人ではない | 相続人 |
| 嫁いだ長女・ 養子に出た次男 |
相続人ではない | 相続人 |
※どちらのルールを使うかを選ぶことはできません。相続が始まった日(西藤家では、道右衛門さんが亡くなった日)の法律で決まります。
ポイント:戸主と家督相続
「戸主」とは、昔の「家」の代表者のことです。戸主が亡くなったり隠居したりすると、家督相続が始まりました。
昭和22年5月2日以前に始まった相続は、当時の民法で処理します。
亡くなった人が戸主なら「家督相続」で、原則として家督相続人1人がすべてを引き継ぎました。誰が家督相続人になったかは、戸籍の記載で確認します。
亡くなった人が戸主以外の家族なら「遺産相続」で、子が複数いれば共同で相続しました。
其の三倅(せがれ)がやってくる
同じ家紋の紋付を着た男が、すーっと隣に現れる。倅の龍右衛門である。

お久しぶりです、親父殿!

龍右衛門! お前も来てしもうたか。
……ところで、土地の名義を変えておらんではないか

いやあ、いつかやろうと思っておったんですが……

いつかやろう、で一生が終わってしまったのか!

まあ、生きとるうちに家族と話しておかんかった、わしも悪いがのう

龍右衛門さんが亡くなったのは戦後なので、ここからは戦後の民法です。奥さまとお子さん全員が相続人になります
其の四わし一人の土地を、20人で持っとる
西藤家のご先祖たちが、一人、また一人と集まってくる。


龍右衛門の嫁も来た、孫の興之助も来た……

では、ご家族のことを順番に教えていただけますか。いったん家系図にしてみましょう
ご先祖たちが口々にしゃべり、前田が紙に書き込んでいく。

わしの子は7人おりまして……

興之助のところは、ひ孫がもう……


まだ書ききれていませんが……オレンジの方が、今この土地を引き継いでいる方々です。誰の名義にするかを決めるときには、この方々全員で話し合う必要があります。今わかっているだけで、20人いらっしゃいますね

20人!?
わし一人の土地を、20人で持っとるのか!

ええ。今は、この20人全員が、少しずつこの土地の持ち主なんです

まあよい。集められるだけ集めて、多数決で決めればよかろう

それが、そうもいかないんです。誰の名義にするかは多数決ではなく、20人全員で決めなければなりません。一人でも抜けていると、その話し合いは無効になってしまうんです

な、なんと……

ただ、全員が一か所に集まる必要はありません。書類をお送りして、お一人ずつ署名をいただく方法もあるんですよ
ポイント:相続人が増えていくしくみ
名義を変えないまま相続が重なることを「数次相続」といいます。相続人は代を重ねるごとに増えていきます。
相続人全員が、少しずつ持ち主になっている状態です。特定の人の名義にするには、原則として相続人全員の話し合い(遺産分割協議)が必要です。
其の五わしの名前のままだと、何が困る?

しかし、わしの名前のままでも、今まで誰も困らんかったのじゃろう?

普段は困らないんです。でも、いざ売ろうとしても、このままでは売れません。そのときになって初めて、20人を探して話し合うことになるんです

親父殿、それに例のうわさの罰金……

ああ、先ほどのお話ですね。実は令和6年から、相続登記は『してもしなくてもいい手続』から『しなければならない手続』に変わったんです

なんと。わしの頃とは違うのう

ただ、昔の相続にも令和9年3月末までの猶予があります。正当な理由なく放っておくと、罰金ではなく『過料』の対象になることがある、という仕組みです。期限もありますから、早めに取りかかるに越したことはありません

ふむ。放ってはおけんが、一つずつ片づけていけばよいのじゃな

親父殿、わしらはもう、ハンコひとつ押せませぬ

うむ。生きとる子らに動いてもらうしかないのう
ポイント:過料と罰金の違い/名義を変えないと起きること
まず、「過料」と「罰金」は大きく異なります
罰金 犯罪をした人が、罪をつぐなうために科される刑罰。前科がつく。
過料 罪をつぐなうものではなく、手続きのルールを守らなかったことへのペナルティ。前科はつかない。
名義を変えないままだと、こんなことが起きます
- 売りたいときに、売れない
- 時間がたつほど相続人が増えて、話し合いがまとまりにくくなる
- 会ったこともない親戚と、連絡を取り合うことになる
- 戸籍を何代もさかのぼることになり、手続きに時間も費用もかかる
なお、令和6年4月1日から相続登記は義務になり、正当な理由なく放っておくと、過料の対象になることがあります(不動産登記法76条の2)。
其の六とりあえず、できること

相続登記というのは、素人でもできるものかの?

できますよ。実際、家督相続が絡むような古い相続でも、プロに頼まず、ご自分でやり遂げた方もいらっしゃいます。ただ、今とは違う法律を当てはめたり、古い戸籍を読み解いたりと、手間も時間もかかるので、途中で『やっぱりお願いしたい』とご相談に来られる方も多いんです

しかし、20人で話し合いなど、まとまるものかの。罰金……いや、過料は避けられんのか?

意外となんとかなるものですよ。すぐにまとまらなくても、『相続人申告登記』といって、『わたしはこの土地の相続人の一人です』と法務局に申し出ておけば、申し出た方は、ひとまず義務を果たしたことになります

とりあえず、とな

でも先生、親戚が20人もおったら、揉めやしませんかねえ

わたしは誰か一人の味方ではなく、中立の立場で、ご親族のみなさんに同じ説明をして、手続きを進めていきます。
にっちもさっちもいかない、ということは意外と少ないんです。まずは一緒に考えてみませんか?

よし、今夜あたり、ひ孫たちの夢枕に立って、前田先生のところへ相談に行けと言うておくわい。先生、そのときは頼んだぞ

はい。ひ孫さんたちに、よろしくお伝えください
ご先祖たちは、にこにこしながら、送り火とともに帰っていった。
ポイント:相続人申告登記とは
「相続人申告登記」は、相続人が「自分が登記名義人の相続人である」ことを法務局に申し出る手続です。誰が取得するか決まっていなくてもでき、相続登記の期限内に申し出れば、申し出た人は、相続登記の義務を果たしたものとみなされます(不動産登記法76条の3)。
ただし、義務を果たしたことになるのは申し出た人だけです。また、名義が変わるわけではないので、売却などをするには、遺産分割などを経て相続登記をする必要があります。
ざっくり、相続登記の流れ
身内が亡くなって、土地や家が残ったら
- 不動産の登記簿を取ってみる登記簿の「所有者」の欄に、誰の名前が載っているかを確かめます。
- 名義が、亡くなった人(またはもっと昔のご先祖)のまま名義は自動では変わりません。
- 戸籍をたどって、相続人が誰かを確かめる古い相続が絡むと、何代もさかのぼることがあります。
- 相続人みんなで、誰が引き継ぐかを話し合うすぐにまとまらないときは、とりあえずできる手続もあります。
- 相続登記をして、名義を変えるこれで、売ることもできるようになります。
よくある質問
Q1. 相談に行くとき、何か準備していったほうがいいですか?
身分証以外は、手ぶらで大丈夫です。
登記簿(謄本)のコピーや、固定資産税の評価証明書があれば、持ってきていただけると話が早く進みます。なくても構いません。
ご家族のことは、口で教えていただければ十分です。誰が相続人になるのか、何から始めればいいのかは、私が考え、お伝えします。
「これも持っていったほうがいいかな」と迷うものがあれば、来所前にお気軽に聞いてください。
Q2. お願いしたあと、私たちは何をすればいいんですか?
戸籍集めや書類づくり、法務局への申請は、私が行います。皆さんにお願いするのは、主に次のようなことです。
- 誰が財産を引き継ぐかを、相続人どうしで決める
- 私が作成した書類を確認して、署名・押印する
- 印鑑証明書を取得する など
Q3. 相続人のうちの一人だけで相談に行ってもいいですか? 家族に付き添ってもらってもいいですか?
どちらも大丈夫です。まずはお一人でいらしていただいて構いませんし、ご家族など、話を一緒に聞いてほしい方が同席されても構いません。
Q4. 祖父が亡くなったのですが、孫の私が相談してもいいですか?
もちろんです。ご相談は、相続人かどうかにかかわらず、どなたからでもお受けします。
ただ、正式なご依頼は、相続人の方からいただくことになります。お孫さんご自身が相続人になっていることもあるので、まずは分かる範囲で状況を聞かせてください。
Q5. そもそも、相続登記っていつまでにすればいいんですか?
古い名義のままになっている場合は、令和9年3月31日までが目安です。
- 令和6年3月31日以前に亡くなった方の名義 → 令和9年3月31日まで
- 令和6年4月1日以降に亡くなった方の名義 → 自分が相続したと知った日から3年以内
※令和6年3月31日以前に亡くなった方の名義でも、令和6年4月1日以降に初めて自分が相続したと知った場合は、知った日から3年以内です。
Q6. 何世代も前のご先祖の名義のままなんですが、今からでも間に合いますか?
できます。
ただ、古い名義の場合は、ご依頼から完了まで、かなりお時間をいただく可能性が高いことをご承知おきください。目安は、たとえば次のとおりです。
- 最近ご主人が亡くなり、相続人は奥さまとお子さん2人。皆さんと連絡がとれ、財産の行き先もほぼ決まっている → 1〜2か月ほど
- 何世代も前の名義で、相続人が大勢いる → 場合によっては、年単位
戸籍をさかのぼって調べたり、多くの相続人の方とやりとりをしたりするため、どうしても時間がかかります。
Q7. 戸籍って、自分で集めないといけないんですか?
いいえ、集めていただく必要はありません。必要な戸籍は、ご依頼後に私がまとめて取り寄せます。
すでにお手元にある戸籍があれば、ご相談のときにお持ちください。同じ戸籍を二重に取り寄せることがないよう、確認したうえで使わせていただきます。
Q8. 会ったこともない親戚が相続人になっていたんですが、どうしたらいいですか?
古い名義の土地では、珍しいことではありません。誰が相続人なのかは、戸籍をたどって私がお調べします。
そのうえで、どう進めていくかを一緒に考えましょう。
Q9. 相続人が遠くに住んでいます。全員で集まらないとだめですか?
いいえ。書類を郵送でやりとりして進められます。むしろ、相続人全員が一か所に集まって話し合うことのほうが珍しいくらいです。
Q10. 自分でやってみたんですが、途中で大変になって……。途中からでも頼めますか?
はい、大丈夫です。
これまでに取り寄せた戸籍などがあれば、ご相談のときにお持ちください。同じものを二重に取り寄せることがないよう、確認したうえで使わせていただきます。
Q11. 相続人どうしで意見が合わないんです。間に入ってまとめてもらえませんか?
申し訳ありませんが、お受けできません。司法書士は、相続人の間に入って交渉することができないためです。その場合は、弁護士をご紹介します。
Q12. 話し合いがまとまらなくても、相続登記は「義務」なんですか?
はい、義務であることに変わりはありません。
ただ、話し合いがまとまらない間は、「相続人申告登記」という手続をしておくことができます。これは、「私はこの土地の名義人の相続人です」と法務局に申し出る手続で、期限内にしておけば、申し出た方は相続登記の義務を果たしたことになります。
話し合いがまとまったら、その内容で、あらためて相続登記をします。
Q13. 費用はどのくらいかかりますか?
相続人の数や、集める戸籍の量などによって変わります。おおよその目安は、費用のご案内のページをご覧ください。正式なお見積もりは、初回のご相談のときにお出しします。
