「親が認知症になったら?」「自分が先に亡くなったら?」
ある家族の会話から、信託のしくみをご紹介します。
登場人物

森 元雄(72)
お父さん。自宅とアパート、預貯金を持っている。最近もの忘れが気になる。

森 妙子(70)
お母さん。アパートのことは何も分からない。

森 隆(43)
長男。不動産会社の営業マン。両親の近くに住んでいる。

森 春男(41)
次男。消防士。兄のことが少し心配。

森 景介(37)
三男。バンドマン。自由人だが、意外と冷静。

前田
司法書士。
森家の財産

自宅
元雄と妙子が
住んでいる家

アパート
家賃が
生活費の柱

預貯金
老後の
生活資金
どれも、元雄さんの名義です。
森家の場合

わしが認知症になったら、アパートはどうなる? 家のことも、銀行のお金のことも、全部わしがやってきたからなあ…。それにわしが先に死んだら、妙子は何も分からんぞ。

アパートの管理なんて、私にはとても…

信託なら、アパートやご自宅、生活のためのお金の管理を、長男さんに任せられます。お父様が認知症になっても、長男さんがそのまま管理を続けられますし、家賃はお二人の生活費に使えます。

え、俺が? 名義も俺になるなら、それって俺がもらうってこと?

いいえ。名義は移りますが、家賃はご両親のものです。長男さんは管理を任されるだけです。お父様が亡くなったあとは、お母様が家賃を受け取る形に切り替わります。管理は長男さんが続けます。

遺言で母さんにアパートを遺すんじゃだめなの?

それだと、お母様ご自身がアパートを管理しなければなりません。お母様が認知症になると、例えば、入居者との契約や修繕の手配ができなくなりますし、預金もおろせなくなることがあります。

家族が代わりにやればいいんじゃないの?

そうだよ。母さんの代わりに銀行に行くくらい、俺たちでやれるだろ。

たとえば、お母様の通帳と印鑑を持って銀行に行っても、「ご本人様ではないので…」と断られてしまいます。アパートも同じです。持ち主ご本人が「お願いします」と言えないと、ご家族が代わりに進めることはできないんです。

お父さんが認知症になっても、同じことになるの?

はい。でも信託なら、お元気なうちにお金を信託用の口座に移しておくので、長男さんがそこから生活費や施設の費用を払えます。

家は…どうしようか。いずれ誰も住まなくなるのに、残しておいてもなあ…。

ご自宅も信託に入れておけば、残すことも、売ることもできます。売るときに誰が決めるのか、誰の同意がいるのかといったルールも、契約の中で決めておけます。

わしらの家か…。そのときは、隆に任せるよ。

でも、兄貴に任せきりで大丈夫か? 兄貴、仕事で外回りばっかりだろ。

おい、信用ないな…。でも正直、俺一人で全部やるのは不安だ。

見守る仕組みも作れます。次男さんや三男さんに、ご両親のために関わってもらう役をお願いすることもできますし、私たちのような専門家が引き受けることもできます。ご家族に合わせて、いろいろな形がとれます。

見守るのは任せとけ。非番の日なら、俺も時間がとれる。

それなら、俺も安心して引き受けられる。

そして、お二人が亡くなったあとに財産をどう分けるかも、今のうちに決めておけます。お父様は、どうされたいですか。

アパートは、管理を任せる隆に継がせたい。ほかの財産は、3人で等しく分けてほしい。

俺はそれでいいよ。管理するのは兄貴なんだし。

だね。3人で共有にしたら、建替えるにも売るにも、毎回3人のハンコがいる。誰かが認知症になったら、また何もできなくなっちゃうし。

父さん、お前たち…ありがとう。

お父様のお考えを、そのまま契約で決めておけます。ご家族みなさんが納得して決めておけば、後でもめることも少なくなります。

まさに、三本の矢じゃな。

ただし、この仕組みはお父様がお元気なうちにしか作れません。気になったときが、ご相談のタイミングです。

